エリナ・レーヴェンソン、ロングインタビュー

配信系映画/ドラマのレビューサイト「ShortCuts」にてエリナ・レーヴェンソンの来日インタビュー記事が掲載されました。

【ロングインタビュー】エリナ・レーヴェンソン ~永遠の異邦人~

 http://www.shortcuts.site/piece/4148

 

ハートリーの短編「セオリー・オブ・アチーブメント」で映画デビューを果たし、『シンプルメン』のエリナ役、『愛・アマチュア』のソフィア役、『フェイ・グリム』のビビ役など多くのハートリー作品で重要な役を演じ、『シンプルメン』の伝説的なダンスシーンでは振付も担当した個性派女優エリナ・レーヴェンソン。難民としてアメリカに移民した波乱の生い立ちからハル・ハートリーとの出会い、大親友エイドリアン・シェリーとの交遊、『シンドラーのリスト』の撮影現場の裏話など貴重なトークを惜しげもなく披露しています。

 

[プロフィール] 1966年7月11日、ルーマニアの首都ブカレスト生まれ。バレエダンサーだった母がアメリカに亡命し、14歳で政治難民としてアメリカに移住。ニューヨーク大学で演技を学び、ハル・ハートリー監督作『シンプルメン』(1992)で注目を浴びる。1990年代半ばよりフランスに拠点を移し、映画、舞台で活躍を続ける。2018年11月、パートナーでもあるベルトラン・マンディコ監督の特集上映のために初来日を果たした。


《ロング・アイランド・トリロジー》ロケ地探訪レポート

《ロング・アイランド・トリロジー》劇場公開記念!ということで、アメリカ東海岸在住の特派員Iが『アンビリーバブル・トゥルース』『トラスト・ミー』のロケ地にもなったハートリー監督の故郷リンデンハーストを探訪してくれました。マンハッタンから東へ57.45キロ。どこにでもありそうな郊外の町で《ロング・アイランド・トリロジー》は生まれたのです。それでは特派員Iによるレポートをお届けします!

(※各写真のキャプションも併せてお読みください。若干ですがネタバレがありますので、気になる方はご鑑賞後に読んでいただく方がいいかも知れません。パソコンのブラウザですと、本文と写真を横に並べた状態でご覧いただけます)

 

■リンデンハースト駅

マンハッタンの主要駅であるペンステーションから、ロングアイランド鉄道に乗って1時間でリンデンハースト駅に到着。ホームから”あの”オイルタンクが見えて、早々に胸が高まる。

 

■オイルタンク

駅を降りてすぐに白いオイルタンク登場。『トラスト・ミー』の超重要シーンの現場で、今回のロケ地巡りのハイライトだ

 

ここに来たからにはこの塀に登って『トラスト・ミー』ごっこがしたい。ということで早速チャレンジ。一段登って、塀の上に手をかけるも足場がなく、私の腕力だけではよじ登れず……。何度かチャンレジするもザラザラのコンクリート面で手のひらを怪我する始末。高さは2メートルぐらいだろうか。

 

同行してもらった男前な友人に肩車をしてもらい、二人掛かりでようやく到達。

 

思ったよりも高くて、かなり怖かった。これを仰向けで落ちていくなんて相当勇気がいる。頭から落ちたら普通に死亡だと思う。「トラスト(信頼)」の意味を体で感じて鳥肌がたった。

 

※ちなみに簡単に想像がつくと思いますが、ここは立ち入り禁止です。このオイルタンクの後ろに回ると階段があるのですが鍵がかかっていて、裏にある事務所のおばさんに頼んでみましたが「登っちゃダメ」と言われました。

 

■町

リンデンハーストの目抜き通り、ウェルウッド・アヴェニューを歩く。日曜日ということもあってとても静か。個人商店が並んでいる。道を下っていくと、リンデンハースト・ミドルスクールがある。ハル・ハートリーの母校で、『トラスト・ミー』ではマリアとアンソニーの学校や、デモ隊が集まる産婦人科医院のロケで使われた場所だ。

 

■ヴェネチアン・ショアーズ・パーク

(時間がなかったのでUBERで移動。UBERは呼んでからほんの数分ですぐ到着。)

 

ヴェネチアン・ショアーズ・パークは、『アンビリーバブル・トゥルース』のラストシーンが撮影された海辺の公園。オードリの元カレとウェイトレスがキスしていたレンガの建物はなく、「KATCH」という建物が建っていた。ここリンデンハーストのヴェネチアン・ショアーズ・パークと、隣町コピアーグのタナー・パークのビーチ2箇所で展開するお店らしい。5月から夏にかけてのみ営業しているようで、冬場はお休み。海の家みたいな感じだろうか。

 

視界一面に広がる海! 鳥がたくさん飛んでいる。遠くに橋が見える。冬場ということもあってちょっと寂しげな光景でもあったが、犬の散歩をしている人、ぼーっと座ってリラックスしている人、ここはここに住む人たちの憩いの場で、日常の一部なのだなと感じた。夏場の様子はわからないけれど、こんな近所にいい意味で派手じゃない、こじんまりしたビーチがあるのはうらやましい! 物語が、この水際で終わるということの意味を考えてみたくなったり。まあでも別に意味なんてなくていいかと思ったり。

 

■ハウストン・ストリート近辺

リンデンハーストの町に戻り、『アンビリーバブル・トゥルース』のロケ地であるハウストン・ストリートに行ってみた。ちょうどサウス・グリーン・アヴェニューとサウス・フルトン・アヴェニューの間(ほんの20メートルぐらい)が、オードリーが彼氏のエメットに別れ話をした場所で、ハートリーの実家も近いらしい。

 

どこにでもあるアメリカの住宅街の風景。本当に家のご近所1ブロックぐらいの身近な場所でたくさんのシーンを撮影していたのだなと感じる。なんだかほっこりした。

 

実は、ここに来るまでに何人か町の人にハートリーのことを聞いてみたのだけど、誰ひとりとしてハートリーの名を知らず。さすがに生家の近くの人なら知っているだろうと聞いてみたら、「ハートリーたち(”ハートリーズ”と複数形)ならあの通りに住んでいるよ」と、教えてくれた。

 

そして、教えてもらった通りを歩きながら、再度ヒアリングをしようかとまた別のおじさんに話しかけてみた。

 

「ハル・ハートリー監督の映画の撮影地めぐりをしているのですが」

「俺のいとこのハルか?」

 

!? 

 よく見ると、おじさんのおうちには「HARTLEY HOTEL」と書いてある。このひともハートリーだ。

 

「俺の家と隣の2軒、3軒続いて全部ハートリー家だよ。隣の隣がハルの実家だ」

と、ハル・ハートリーのいとこのドンさんが教えてくれた。

 

「ハルの映画のためなら喜んで応援するよ。何でも聞いてくれ!」と親切に言ってくださったので、『アンビリーバブル・トゥルース』のことを聞いてみた。

 

『アンビリーバブル・トゥルース』のジョシュの家と、ドンさんの家の番地が同じだったので気になったのだ。

 

「そうだよ。この家は、『アンビリーバブル・トゥルース』に撮影に使われた。実はちょうどその時、俺はこの家を買ったばかりで、改装をしていたんだ。ドアとかも一度全部取っ払ったところに、ハルが撮影に使いたいと頼んできた。それで急いで取り外したばかりのドアをまた付け直したりして、大変だったね(笑)ボブ(ロバート・ジョン・バーク)や役者たちは撮影中ここに泊まっていたよ」

と当時の貴重な思い出を語ってくれた。

 

なるほど。空き家の設定にぴったりだったんだ! 

 

「ボートはもうないけど」と言いながら、『アンビリーバブル・トゥルース』で登場する裏庭も見せてくれた。隣はドンさんの実家で、オードリーの父親の誕生パーティーのシーンを撮影した場所だという。そのさらに隣がハル・ハートリーの実家で、ガレージに『アンビリーバブル・トゥルース』撮影時のオフィスが即席で作られたのだとか。

 

ドンさんのおうちの「HARTLEY HOTEL」という看板は、ホテルを営んでいるわけではなく、以前遊びに来た親戚から「こんなに人がたくさん集まる家はみたことがない」と言ってプレゼントされたプレートなのだとか。ハートリー家は大家族で、たくさん親戚が集まる機会も多いのだそう。そんな家系に生まれたハル・ハートリーもまた、パーチェス校の仲間を家に集めて映画作りを始めたんだなぁとにんまり。

 

「数年前に、クイーンズのミュージアム・オブ・ザ・ムービング・イメージでハルの映画の上映があって、妻と一緒に行ったんだ。あいつ、インディペンデント映画の世界ではけっこう有名なんだってね。上映後にQ&Aに答えているハルの姿を見て、なんだか面白かったし、誇らしかったよ」

 

「日本での公開も応援してるよ! 頑張ってね!」

 

■まとめ

リンデンハーストは列車に乗れば1時間でマンハッタン、車ですぐに海にも行ける。千葉のどこか、というイメージだろうか。いわゆるアメリカのど田舎と違って、外界へのアクセスが良い分「ああ、ここで一生を終えるんだな」という閉塞感はなく、一方で、忙しない都会とも適度な距離感がある。ゆったり、マイペース。《ロング・アイランド・トリロジー》が生まれたリンデンハーストはそんな場所だった。そして、ハートリーがいかに身近な場所で、ふつうの場所で、映画を撮っていたのかを目の当たりにして合点がいった。ああ、だから、ぶっ飛んでるのにちゃんと親近感や懐かしさを感じるのかと。

 

※おまけ リンデンハーストのプロモーションビデオ 

https://proudtown.com/town/lindenhurst/ 

ロケ地巡りをしただけでは見つけられなかったいろいろなお店の存在やちょっとした歴史を知ることができる。

 

■番外編:マンハッタン、モット・ストリート

マンハッタンのモット・ストリートにも行ってみた。『アンビリーバブル・トゥルース』で、モデルになったオードリーがカメラマンと暮らしていたビルが建っている。建物のレンガの感じや窓の木枠の色などはちょっと違っているが、突き出した小窓は特徴的なのですぐ目に付く。

 

数分、窓を眺めていましたが、本は投げてません。

 

同じ通りには、人気スイーツショップのMILK BAR(ノリータ店)やコールドプレスジュースのJuice Press、ヴィンテージジュエリーショップやセレクトショップなど、おしゃれなお店が並んでいた。この通りだけでなくここ一帯(ノリータ、ロウワー・イーストサイド)はおしゃれな路面店がいっぱい。

 

(特派員は一時期「ゴシップガール」にハマっていたことがあるのですが、ハートリー作品常連のロバート・ジョン・バーク演じるバート・バスはアッパーイーストサイドに住む億万長者だったので、前科持ちのメカニックからすごい出世をしたのだなぁなどと感慨深くなってしまいました)

 

 

2018年12月10日